目前の青年が仮面のような表情で俺に、黒い鉄の塊、38口径の銃を差し伸べる。
取れ。
彼の鋭い視線がそれを俺に強要する。
俺は震える手を必死で押さえながら、その38口径を受け取る。
弾倉は五つ。
実弾は一つ。
単純な確率計算では、最悪の事態が起きるのは五分の一、たった20%だ。
ゆっくり、銃口を自らのこめかみへ。
人差し指をトリガーに当て……。
しかし、俺の動作はそこで凍りつく。
「どうした? 時間がないんだろう?」
どうせできやしない。
そんな確信に満ちた視線を向けながら、目前の青年は無表情で俺を嘲笑する。
俺に与えられた任務、それは目前に立つこの青年を連れて帰還する事。
組織にとって、この青年の協力が必要不可欠なのだ。
そして、青年が協力のために提示した条件。
それが、この意図不明なゲームだ。
結果の如何に関わらず、行いさえすれば、彼は協力をしてくれるのである。
実力行使に出れば、彼はすぐさまもう一丁の銃で自らの頭を打ち抜く、と言った。
つまり俺に与えられた選択肢は、このゲームを引き受けるか否か、だけだった。
「先ほど君は言ったね」
微苦笑の入り混じった溜息。
「この世界を変えるためなら、自らの命を賭ける事も惜しまない、と。だったら、何故これが出来ない?」
そうだ、どうして出来ないんだ?
この青年が協力さえしてくれれば、俺達の最終目標は達成できるのだ。
なのにどうして?
優先順位を考えろ。
俺にとって一番大切なものはなんだ?
無論、それは―――。
無論、それは―――。
無論、それは―――。
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