BacK

 

 

カタカタカタ……。

静まり返ったその部屋には、キーを叩く音とPCの稼動する音だけが響いている。

机に向かう青年は、無言でキーボードに指を走らせる。

ただ、黙々と。

「第五セキュリティシステム解除。侵入成功っと。」

ぼそっ、と独り言を青年がつぶやく。

と。

「マスタ〜?」

突然、部屋に響き渡る女の子の明るい声。

しかし、青年は振り向かず、ディスプレイに目を向けたままキーボードに指を走らせる。

「何をしているんですか?」

「シリウスのデータベースに侵入しているんだ。ちょっと気になる事があってね」

「シリウス?」

少女の声が訝しげになる。

「私、嫌い」

「どうしてだい?」

「だって、マスターの困る事ばっかりするんだもん」

「ふふっ、そうだね」

青年は僅かに顔を綻ばせる。

「おっと、見つけた見つけた。ソルジャーに関するデータファイル」

「なあに、それ?」

「さあ? 僕も分からない事があったんで、このファイルを探していたからね」

青年は右手でマウスを動かし、ダブルクリック。

「ん? これは……」

突然、ディスプレイを見つめる青年の表情が硬くなる。

「“セカンドに関する詳細”―――。これは……」

「マスター?」

少女が青年にそう問う。

しかし、青年は緊張した面持ちでディスプレイを食い入るように見つめ、ひたすら右手でマウスを捌く。

青年のただならぬ様子に、少女は何か大事なものを見ているのかとじっとおとなしくなった。

青年の邪魔をしてはいけないのだから。

再び静まり返った室内に、PCの稼動音とマウスを動かす音だけが響く。

青年は一心不乱に、ただディスプレイに映し出されるファイルの内容を読み漁る。

「そうだったのか……あいつら」

やがて、溜息まじりに青年はそうつぶやいた。

その表情には僅かに、怒りと、そして悲しみの色が浮かんでいる。

青年はディスプレイの電源を落とし、立ち上がった。

「少し出かけてくる」

「どこに行くんですか?」

「そろそろあいつらが僕を追って来る頃だからね。迎えに行くんだよ」

「?」

「心配するな。すぐ帰ってくるよ、RR」

 

 

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