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 ぽた、ぽた、ぽた。
 温かいモノが私の上に降ってきます。
 なんだろう? この温かいモノは。
 雨が降ってきたのでしょうか?
 いえ、それとはちょっと違うようです。
 私は意識がありませんでした。そして、その状態を自分で意識しています。
 奇妙で矛盾した状態の中、私は手探りで頬を打つそれに手を伸ばしました。
 べとっとした生温かい感触。
 なんだろう?
 緩やかにその疑問を問いながら、私は自分の所在を確かめます。
 と。
 ずしり、と重い感触が乗りかかってきました。
 あれ?
 不意の衝撃に、私は自分の体の感覚を取り戻しました。
 何かが私の体の上に圧し掛かってきています。
 体の全感覚を圧し掛かってくるそれに向けます。
 それは、不規則なリズムで微かに上下していました。そして同じリズムでひゅうひゅうと空気が漏れるような音を発しています。
 なんだろう?
 少し温かい。
 なんだろう?
 けれど、どんどん冷たくなっていくような気がします。
 なんだろう?
 空気の音も小さくなっていきます。
 そして。
 ゆっくりと目を開けたその先には。
「……シャルト……さん?」
 私が好きなシャルトさんの薄紅色の瞳は、まぶたが閉じられて今は見えません。
 何が何だか分からなくて。私はしばらくの間、茫然とただ間近に迫っているシャルトさんの顔を見つめていました。
 シャルトさんは血と泥とで汚れていましたが、それでもはっきりと分かるほど顔色が青褪めています。いえ、むしろ土気色と言った方が近いかもしれません。
 シャルトさんの全身はあちこちに怪我をしていて、まだ血が乾いていない所も沢山ありました。どちらかというと細身なその体は、力を失ってがっくりと脱力しています。
 これは一体なんなのだろう?
 私は必死で記憶を辿りました。
 やがて一切の禍々しい記憶を封じ込めた蓋を、そうとは知らずに開けてしまいました。
 この状況が理解出来て。
 これに至るまでの経過を思い出して。
 まず、最初に私がした事。
 それは―――。
「嫌ァァァァァァッ!!」



TO BE CONTINUED...