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償い。
世の中、これほど難しいものはない。
自らの犯した罪のため、人は償いをする。
しかしそれは、人のためだけにするものではない。罪を犯した自分を赦すために、むしろそのための行為なのだ。
私は、人と自分と、一体どちらのために償おうとしているのだろう?
悲しむ人を目の前にすると、自分のために償うなんて言えなくなる。
私は重い足取りで東区の病院へ向かっていた。『風無』からの情報で、昨夜の事件の生存者が一人いる事を聞いた。命に別状がある訳ではないのだが、一応検査入院という形で保護しているそうだ。
病院に行くのは、別に体の調子が悪いからではない。その、生存者に会いに行くためだ。
昨夜の襲撃から明け、依然として北斗は厳戒態勢が継続中だ。そこまでして警戒するほどの敵ではなかったのだが、北斗が受けてしまった打撃はかなり深刻だ。南区の六割以上が機能を停止してしまっているのだ。南区はもはやゴーストタウンに等しい状態だ。復旧作業は開始しているものの、全てが元通りになるまでは半年以上はかかる。
守星自体の被害は全くなかったので、北斗そのものの防衛力は変わっていない。だが、これを北斗を落とす絶好の機会と睨んで進軍してくる戦闘集団がいても不思議ではない。一つ二つならば守星だけでどうにか出来るのだが、一度に何十もの戦闘集団が結託して波状攻撃を仕掛けてくるのであれば、少々事態は変わってくる。敵の数に応じ、こちらも十二衆を何派か出撃させなくてはならなくなる。そういった場合に迅速に対応するための厳戒態勢なのだ。
こうなったのも、全て、私が原因だ。
昨夜だけでも五百人近い人間が死んだそうだ。私がモタモタしている間、他の守星が現場へ到着した時には既に敵集団は南区に散開してしまっていた。たまたま近くにいたエスタシア様が本隊をいち早く討ったため南区壊滅という最悪の事態は防がれたものの、残党狩りに三時間という異例の時間がかかってしまった。明朝に風無から出された最終被害報告の数字は、北斗の史上にもまず見当たらないほど深刻な数字なのだそうだ。ヨツンヘイム最強と謳われる戦闘集団北斗とは思えぬ、大失態、大損害だ。
敵は大した強さではなかった。先行隊も、私一人がいれば余裕で迎撃出来たはず。先行隊が出鼻を挫かれていれば後続部隊も出撃してくる事はなく、被害もここまで深刻にはならなかった。にも関わらず、私はそれが出来なかった。出来なくなるまで、お酒を飲んでしまっていたからだ。
言い訳すら出来ないほどの失態だ。こんな情けない理由で、これほど多くの人間を死なせてしまったなんて。想像しただけでも、胸が張り裂けそうなほどの罪悪感に苛まれる。
自分が犯してしまった過ちを考えると、苦しさで息が出来ない。
夜が明けるまでふらつき、くたくたになった足の感覚は薄くなっている。頭も締め付けられるように痛い。昨夜よりも更に酷い吐き気もする。けど、それ以上に。罪悪感は痛烈に私を責め苛んでくる。体だけでなく、心も、そして魂までもが引き裂かれる思いだ。
どうすればいいのだろう?
一晩中、そればかりを私は考えていた。
私の失態で死んでしまった大勢の人達。私は彼らのために何が出来るのだろうか?
生きている人は死んでいる人には無力だ。
何をしてやれるのか、まるで思い浮かばない。
だから私は、その生存者の元へ向かっているのだ。
これから私はどうすればいいのか、その答えを求めて。
けど、その前にやる事がある。私のせいで取り返しのつかない事になってしまった人へ―――。
TO BE CONTINUED...