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深夜。
青年は自室の窓から北斗の街並を静かに眺めていた。
部屋に明かりは一切灯されていない。しかし、外から差し込んでくる柔らかな人工の光が闇を薄めている。
北斗の繁華街は眠る事はない。昼夜を問わず華やかな賑わいを見せ続けている。その無尽蔵とも思えるエネルギーは人々に活気を与え、そしてそれはこの無政府国であるヨツンヘイムにおいて北斗がどれだけ治安を保たれた街であるのか、最も分かりやすい証明となっている。
闇夜を照らす人工の光達を、青年は穏やかな表情で見つめていた。しかしその目は対照的に鋭く、そして何故かある種の悲しさを湛えていた。
その時。
不意に口から漏れた溜息。それは重かった。青年の抱えている憂鬱、迷い、躊躇、それらに似た感情の深さをそのまま表しているようだった。
その溜息を合図に、青年は表情をぐっと引き締め刃のような厳しさをあらわにする。周囲に向けるためのものではなく、自分自身への戒めとしての厳しさのようであった。
と。
「来て頂けたんですね」
ゆっくり青年は振り返る。
その先には一人の女性が立っていた。
彼女もまた、決意に満ちた厳しい表情を浮べている。けれど青年に比べると穏やかさが感じられた。彼女の決意は、青年と方向性は同じでも性質が若干異なるからだ。
彼女はゆっくりと青年へ歩み寄る。そして青年もまた距離を詰める。やがて二人は互いに触れ合えそうなほどの距離まで近づき、互いの顔を見つめ合う。真っ向から向かい合う視線をどちらもそらす事は無かった。
薄闇ははっきりと姿を見させてはくれなかった。けれどその分、相手へ向ける意識が強まる。
「僕はあなたの気持ちを知っています。その上で、あえて利用しようとしている。それでも着いて来てくれるのですか?」
「はい」
青年の問いに、彼女は迷わず答えた。何の恐れも無い、真っ直ぐな瞳だ。
「必要とされるのなら、それで私は嬉しいのですから」
彼女は微笑む。
青年はそっと手を伸ばし彼女を抱き寄せた。
彼女は彼の腕に従った。
「私はあまり難しい事は分からないけれど……でも、北斗のため、あなたのためなら命も捧げます」
ぎゅっと強く青年は抱きしめる事で彼女に答えた。
窒息感。
けれど彼女にはそれが心地良かった。
「僕は人々に忌み嫌われるでしょう。あなたにも辛い思いを強いる事になります。でも、僕は北斗が好きだから、あえてそれを辞さない覚悟です」
「私は最後まであなたの味方です。最後まで」
TO BE CONTINUED...