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翌日、エリノーラの転送魔法でエクスと周辺の人物達が先行して魔王城へとやってきた。これより戴冠式の最終的な準備や打ち合わせなどを行うためである。
「これが魔王城かあ。うっわ、すっごいなあ」
「思ったより露骨なデザインなんだね、こういかにも悪の親玉が住んでますよって感じの」
「教本に悪魔の根城についての挿し絵がありましたが、私はずっと誇張したものだと思っていました……」
黒い影が不自然なほどあちこちに差し込み、屋根や柵を含め全体的にやたらと鋭利に尖った部分が多く、凶悪な笑顔にも見えなくもない正面玄関の形状。どれ一つ取っても不自然なほど魔王らしさを強調している。魔王城に魔王らしさを求めるのもおかしな話だが、ここまで期待通りであると逆に何者かの意図が見えてくるような気がする。
「まあ、お世辞にもまともなデザインとは言えないだろう。これはほとんど先代魔王の命令でこの形に改築しているため、誤解無きように」
「だったらもうちょっとマシなのに変えたら?」
「それも検討はしたのだがな。結局のところ、この魔王のイメージというものが固定観念となって国民に染み付いていてな。今更変えようにも変えられないのだ」
ソルヘルムの国民にとっては、こういった雰囲気やデザインで無ければ魔王らしさを感じられないという事か。そんな事情であればやむを得ないが、そうなるともう一つ懸念する部分が出て来る。
「城でこういうデザインって事はつまり、エクスの衣装も?」
「そうだな。魔王としての正装となる」
三人の表情が一斉に強張った。魔王としての正装など実際に見たことはないが、城の外観を見ればそれがどんなものなのか容易に想像がつくからだ。
「エクス殿には申し訳ないが、なに式典の間だけだ。我慢して貰いたい」
「どんな格好をしようと、それだけで死ぬことはないさ。それくらい気にしなくていいぞ!」
エクスは実際にどういった衣装なのかを見ているはずである。にも関わらず即答できるのは、それだけ寛大なのか、それとも鈍感なのか。どちらにせよ、当事者が納得するのであればそれで良いだろうが。
「やっぱ、申し訳ないって思うような衣装なんじゃん」
「そうだな。ちなみに、お前達三人の衣装も用意しているぞ」
「は? なんで?」
「お前達はエクスの愛人か側近なのだろう? ならば式典にも参加して貰わねばならないし、式典には正装というものが必要だ」
思わぬ飛び火をしてきた。三人の表情が再び強張る。
「……ちなみにだけど、あんた達が着ているような軍服?」
「まさか。魔王に近い階級の者は皆、衣装も魔王がデザインの監修をしていた。それが慣例となっている」
「じゃあアンタらも着るじゃないの」
「そうだな。ただ、デザインはお前達とは異なる。身分が違うからな」
「どう違うのかはさておいて……ワタシらよりマシだなって思ってない?」
「そんな事は微塵も。さて、早速衣装合わせに向かおうではないか」
そう言ってエリノーラが城の中へと向かい始めた。
ほんの僅かだが、振り向き様にエリノーラの口角が上がったように見えた。馬鹿にしているというよりも、単に自分達が着る羽目にならなくて良かったという安堵からの笑みだろう。
「うーむ、俺達の文化からすると少々ズレた衣装というようだな。みんなもすまないが、式典の間だけでも我慢してくれ」
「いえ、私はこういった事も覚悟しております。地獄の底まで、エクス様と共に参りますから」
まるで死地に赴くかのような、決死の覚悟の表情を見せるシェリッサ。流石にそれは大袈裟かと思うものの、考えてみればシェリッサは厳格な聖霊正教会の元で育っているため、着る物に関しても普通の人間より固定観念が強く、魔族の衣装となれば忌避感も強いのだろう。
エリノーラの後に続くエクスとシェリッサ。そして暗黙の内にそこから更に少し遅れて続くドロラータとレスティンは、前の二人の後ろ姿を見ながら悩ましげな表情を浮かべた。
「何となくなんだけど……この流れで行くとあたし達三人共、エクスの愛人? 側室? なんかそういう扱いになっちゃわない?」
「そ、そう、そうだよね……。いやー参っちゃうな。決着も何もしてないのに」
「まあ、あたしはエクスを独占しようとかそういう気は更々ないけどさ。どこかで決めないといけないことかもね。折り合いを付ける? ってやつ」
「折り合いって……そういう? 三人で共有しよう的な? それ、エクスはともかくシェリッサに言える?」
「言うのは簡単だけど、飲ませるのはどうだろうなあ」
こんな異常な状況になってきたのだ、シェリッサもどこかで普通の落とし所は無いと察してはいるだろう。時間はかかっても説得の仕様はあるはずである。
「ホント……どんどんまともな人生の道から踏み外してる気がするわ」
「いいんじゃないの? 未開拓の荒野の初踏破なんてロマンじゃない」
「ワタシはもっとベタなロマンチックさを求めてたの!」