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「そうか……キミもそういう年頃だったね」
「何よ、人を反抗期の子供みたいにさ」
「いや、反抗期の子供そのものだよ」
父親が自分へ見せる表情は、いつもニコニコしている。多少の悪さでも怒鳴らず、困った表情を浮かべるのみだ。それだけに、今の徹底した無表情さはとてつもなく深い怒りを秘めているようにレスティンは感じた。
どの道、父親とは対立し決別する事は避けられなかったのだ。事後になるとずっと思っていたが、それが事前になっただけに過ぎない。そう自分へ言い聞かせるようにして気持ちを切り替える。
「念のため、訊いておくよ。キミ達は何を企んでいるのかな? はっきりと直接聞いておきたいんだ」
キミ達という言葉には、ドロラータやシェリッサの存在も含まれているのだろう。そこまで動向を掴んでいるのだ。となれば、自分がやるべき事は一つ。少なくとも明日の決行直前まで、父親を拘束し一切身動きが取れないようにすることだ。
「エクスを脱獄させるよ。そして何処かへ一緒に逃げる。エクスが反逆罪だなんて、絶対に間違ってる。幾ら邪魔になったからって、あんな仕打ちは黙って見てられない」
「不良娘の家出だけなら笑って済ませる所だけど、やはりそうもいかなくなったようだ」
父親はさして驚きもせず、ただじっと無表情のまま視線をレスティンへ向ける。元々脱獄について少なからず予想はしていたのだろう。それでも娘の口からはっきり聞かされるまでは信じない、そんな心境だったのかも知れない。
「どこで気付いたの? ワタシ、準備にはギルド本部にもバレない人脈使ってたつもりだったのに」
「キミが急にお酒を飲まなくなっておとなしくなったと聞いたからだよ。後は調査ギルドを使えばすぐに動向は掴めるさ。こんな程度でパパを出し抜こうなんて、まだまだ考えが浅はかだね」
確かに、この別宅へ軟禁させられてからは日々お酒を飲んでは荒れていた。しかし脱獄計画を始めた時、体を部屋の中でも動かして整えるようにしていたためお酒も必然的に飲まなくなっていた。体調のための節制だったが、それが裏目に出てしまったようである。
「レスティン、いい子だからそんな馬鹿な真似をするのは止めなさい。お友達も同様だ。止められないというのなら縁を切ってしまいなさい」
「嫌だね。もう決めた事だし、幾らパパでも友達の事にまで口を出さないで」
「いいかい、これはキミのために言っている事だよ。脱獄なんて上手くいくはずがないじゃないか。そんな事をしたって、自分を不幸にするだけだ」
「不幸になるとか勝手に決めつけないで。自分の人生くらい、もう自分で決められるわ」
「まったく……エクスエクスと、少し付き合いが長過ぎてしまったようだね」
そう溜め息をついた父親の姿に、不意にレスティンの中に怒りが込み上げる。
「エクスエクスと言ってきたの、そもそもパパじゃない! あの勇者エクスと結婚すれば、ワタシは幸せになるんじゃなかったの!?」
「あの時と情勢は変わったんだよ。勇者なんてものは、もう存在しないんだ。王室の事情は知らないけど、反逆罪なのだと言われた以上はエクスは反逆者。我々は関わっちゃいけないんだよ」
「ほら! パパが見てるのはワタシじゃなくて情勢じゃない! 何が娘の幸せよ!」
父親は深く溜め息をつきながら慎重に言葉を選んでいる様子で、ゆっくりと注意深く話し出す。
「パパはね、レスティンの幸せの事を考えて、いつも最善を尽くして来たよ。あの時はエクスと一緒になることが間違いなく最善だった。それが今は変わってしまったんだよ。情勢が変わるというのはそういう事で、誰のせいでもない。ただ、情勢を逆らうのはとても辛い目に遭う事なんだよ」
ゆっくりと静かにとうとうと語る父親だったが、レスティンは半分もまともに話を聞いていなかった。話の要点は非常に簡潔で、内容は冗長でしかないからだ。
「嘘つき。エクスを議会で利用したかっただけの癖に! ワタシのためなんて言うのも、どうせ嘘なんでしょ! 好きでもないのに結婚させようとして、いざ結婚しようとしたら今度は嫌いになれと言って、これ以上親の都合で子供の気持ちをかき乱さないで!」
「親の愛情が分からないのかい。パパはね、亡くなったママに誓ってレスティンを―――」
「都合悪いからって愛情を言い訳に使うな! 勇者に肩入れした事で自分の立場が悪くなったから、しばらくは目立ちたくないってはっきり言ったらどう!?」