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 深夜、三人はドロラータの寝室に集まっていた。ドロラータは相変わらず口数が少なく表情も乏しいため、シェリッサは未だ集められた意図を計りかねていた。一方のレスティンは、女子トークなどと宣ったドロラータの言葉を額面通り受けたらしく、一人うきうきしながらお盆にお菓子や飲み物を準備している。
「ではそろそろ始めたいと思います。第一回、夜の女子会トークぅー」
 普段の低いテンションで開催を宣言するドロラータと、呑気に拍手するレスティン。シェリッサはそんな二人にただただ怪訝な顔をするばかりだった。
「わー、こういうのワタシ実は初めてなんだー。何を話そうかな! 何を話したらいい!?」
「そりゃもう女子会の定番と言えば、恋バナでしょう」
「おお! しちゃいますか、恋バナ!」
「うん。今回の趣旨は、まあぶっちゃけお互いに無駄な鞘当てしないで、要点だけぱぱっと話しておこうってこと」
「要点?」
「あたしら、それぞれ色々と立場もあるって訳でしょ。その辺の隠し事を無くして効率良くやりましょうってこと」
「うーん? なんか想像してた恋バナと違うんだけど……」
 察しの悪いレスティンが小首を傾げる。シェリッサはドロラータが何を遠回しに言っているのか、概ね推察できた。だがとてもこんな軽々に打ち明けるような内容では無いと思うのだが。とにかくシェリッサはドロラータの出方を見る。
「察しの悪い子もいるし、まずはあたしから話した方が早いかな。知っての通り、あたしは魔導同盟から長老共と勇者何とか委員会が癒着して送り込まれたんだけど」
「え? 送り込まれたって、エクスと採用面接したでしょ?」
「形だけね。そもそもパーティーへの枠が先に内定済みで、後付けであたしが選抜されて送り込まれたってワケ」
「何それ、贈賄じゃん! 魔導同盟は贈賄をしている!」
「あんたもよ。ギルド連合から委員会に幾ら流れたのかは知らないけど、まさか本気でギルド連合枠をタダで用意して貰ったと思った? それに聖霊正教会だってそうだよね」
「まあ、明言はされませんでしたが、大方そういう事だろうと察してはおりました」
「なあにそれ! じゃあエクスのパーティーなのに、エクスの決定なんてこれっぽっちも無いってことじゃない! これ、エクスは知ってるの?」
「どうかな。そういうの、気付いても知らない振りをしそうな人だし。ガチで気付いてない可能性もありそうだけど、まあどっちにしたってどうにもならないでしょ。アリスタン王朝の決めたことになるんだから」
 勇者エクスのパーティーは、それぞれの組織から流れた金で作られている。シェリッサは今までこの事実を想像したことがない訳ではなかったが、なるべく自分の邪推だと思うようにしていた。それだけに、同じ考えを持つドロラータのせいでその邪推に確信を持ってしまった。
「で、話を戻すけど。うちとあんたらとで、そうやって高い金払って枠を確保した訳なのはいいよね。で、その枠に送り込まれたのがあたしらのような経験の少ない若造って事なんだけど。それはつまり、勇者のサポート以外の目的があっての人選だと思うんだよね。ぶっちゃけ、うちがそうだし」
「目的って、何か企んでるの?」
「エクスを魔導同盟に引き入れるため。ってか、長老共はあたしにエクスの子供を作らせたいみたい」
 平然と話すドロラータの様子のせいで、シェリッサもレスティンも一体どういう意味なのかを理解するのに僅かばかり時間を要した。そしてたちまち血相を変えてレスティンが声を荒げる。
「は、はあ!? 子供ぉ!? なんでまた!」
「エクスって出鱈目に強いでしょ? 中でも、魔導同盟が知らない魔法まで使えるから、特にそれが欲しいみたい。研究材料にね。子供まで作れば血脈も取り込めるでしょ。ついでに枷にもなって一石二鳥どころじゃないよね」
「うわー……マジで引くわ。魔導同盟って頭おかしいやつばっかりって、パパが言ってたの本当だったんだ」
 エクスの強さを魔導同盟は天性のものと考えている。そしてそれが魔導的に解明出来るという事も。創世の女神を信仰するシェリッサにとってそれは、あまり歓迎出来ない考え方だった。創造は女神の領域である。そこに無断で人間が足を踏み入れるなどあってはならない事なのだ。
「それで、ギルド連合は? 勇者エクスに憧れてーって訳じゃないでしょ」
「ええ……まあ、その、ワタシのパパ……ギルド連合の長なんだけどさ。エクスをうちの議会の派閥に入れたいんだって。だからそのために、エクスと結婚しろって……」
「ええっ、結婚だなんて……!」
 思わず声をあげるシェリッサ。その反応が意外だったのか、レスティンは驚いた顔で振り向いた。結婚という単語に反応してしまったが、これではまるで何か意味ありげではないか。察せられたくない、そう祈るシェリッサだったが、既にドロラータは心中を見透かした表情をしていた。
「ふーん、その様子だと聖霊正教会も同じみたいね。最近は新教に押されて発言力や存在感が落ちているから焦っているんじゃない? それで勇者エクスを取り込もうってとこかな。エクスを信徒にすれば、広告塔にして新たな信徒獲得も期待出来るもんね」
「そ、そのようなこと! 私はあくまで星読みのお告げに従って行動しているまでで……」
「星読み? ああ、正教会の伝統芸能のアレ。どうせ教会に都合の良いことそれらしく言ってるだけでしょ。お前は勇者エクスと結婚する運命なのだーとか言われてない?」
「何を! 星読みは万物の理を読み取る由緒正しいものです! 侮辱は許しませんよ!」
 だが、ドロラータの指摘は概ね当たっている。
 魔導同盟とギルド連合がそれぞれエクス取り込みの動きを見せている以上、聖霊正教会も何もしていないはずがない。そうするとやはりどうしても星読みの預言は、あまりに都合が良すぎるのだ。自分をエクスとの結婚へ自然に焚き付ける事が出来る。現にドロラータにこの集まりを開いて貰わなければ、もしかすると盲目的に従っていたままだったかも知れない。
「とりあえずね、三人が三人共、エクスを連れて来いって言われてるのは分かった。でもそこは本題じゃないの。大事なのはここからよ」
 すると急にドロラータの雰囲気が変わる。これまでの飄々としてどこか無感情だった振る舞いが一変し、同じ無表情でも鬼気迫った緊張感を煽る雰囲気を醸し出し始める。
「みんな組織の思惑で動かされて大変だなって事は一旦置いといて。組織の件どうこう関係無しに、エクスのこと好きになっちゃってる人、いる?」