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 ドロラータの作る僅かな灯りを頼りに街道を進んでいく一行。しばらく歩いていると、街道の途中に横へ逸れていく脇道を見つけた。それはあまり整備されておらず、今はもう誰も使っていない古い道のように見えた。だが地面は踏み固められ雑草が少なく、全く人が通っていない訳ではないようだった。
「この道は何かな? 地図はどうでしょう?」
 四人は灯りを頼りに地図を広げて場所を確認する。するとおそらくこの道らしい記載をすぐ見付ける事が出来た。
「町に続く旧道みたいね。昔はここ使ってたのかな」
「あれ? 良く見ると、旧道の方が町まで近くない?」
「旧道は途中から崖際を通っているから、道幅が狭いんじゃないの? 荷馬車だと通れないとか、通るにしても危ないとか」
「となると、歩き慣れた人が近道のために今も使ってるって事かあ」
 現在の街道は町までやや遠回りになるものの、道幅も広く足元も綺麗に整備されているため、荷馬車などを使うには都合が良いのだろう。道が広く大きいという事は地図上でも分かりやすいため、この辺りの土地勘が無い者にも重宝する。逆に旧道は近道になる以外の利点が無いため、地元の慣れた人しか使わないだろう。
「よし、先にこの旧道も調べてみよう!」
 そう宣言するエクス。しかしすぐに、
「えー!? ちょ、ちょっと待ってよ! なんでわざわざこんな不気味な所を!」
 真っ先に声をあげるレスティン。それは明らかに暗く不気味な場所を拒んでいる口振りだった。
「何故も何も、変死者の多くがこの辺りで見つかっている訳だし、何かしら手がかりが見つかるかも知れないじゃないか」
「ひっ、えっ、こ、この辺りなの? 呪いで人が死んでるって……」
「そうよ。あたし、さっき言わなかったっけ?」
「言ってない! このいい加減魔導師!」
 レスティンは自分よりも上背のある男にすら平然と立ち向かうほどの度胸がある。にも関わらず、何故か幽霊だの心霊だのに極端に弱い。きちんと対処法を学んでいないからそう感じるだけではないのか。ドロラータにはレスティンのこの弱点に共感出来なかった。
「あの、エクス様。道が悪いという事は、土地勘の無い私達では滑落など事故を起こさないでしょうか? そういう意味で危ないと思いますが」
「崖際までは行きませんよ。流石に危ない事は俺でも分かりますから。だから途中までです」
 そうにっこりと笑うエクス。その自信に溢れた表情に一旦納得しかけるシェリッサだったが、そもそもその途中がどこまでが適正か暗くて分からない事が問題なのであり、慌てて再度問う。
「我々は土地勘もありませんから、こういった道を夜に歩くのは避けるべきですよ。万が一迷ってしまったら」
「その時は朝まで待つしかありませんね。まあ大丈夫、崖際にさえ気を付ければ何とかなりますよ。さあ、行きましょう!」
 そう言ってエクスは自ら先陣を切って旧道へ入っていく。その後を遅れずにドロラータもついて行く。二人の様子を見てレスティンとシェリッサは慌てて後を追った。
 旧道は山中をただ人がすれちがえる程度の幅に切り開いただけの、ほとんど獣道に近かった。人の往来で草の根が削られているだけの道は非常に見づらく、この真夜中にドロラータの作る僅かな灯りだけでは藪の中を分け入っているような錯覚にすら陥った。そんな状況でもエクスは恐ろしいほど自信満々に迷い無く先へ進んでいく。こんな状況で道に迷ったら、呪いの主に襲われたら、崖際に気が付かなかったら、そんな不安ばかりが脳裏を過る。
「ね、ねえ、ドロラータ。あんたもうちょっと灯りなんとかならないの?」
 どこか上擦った声のレスティンに問われ、ドロラータは面倒そうに問い返す。
「え、何? 暗いのは怖い?」
「なっ、怖くな―――危ないからって言ってんの! 第一、そんなしみったれた灯りじゃエクスだって困るでしょう!?」
「俺の心配はいらないぞ。俺は昔から夜目が利くから、このくらいの灯りがあれば十分だ!」
「あ、そうですか……」
 エクスの身体能力は色々と規格外らしいが、夜目も利くのは魔法要らずで便利だとドロラータは思った。
「ちょっと、あんたは平気なの? 道に迷ったりとか、足元が見えないとか」
「別に。こういう時用に、微妙か浮いて歩ける魔法があるから。ほら」
 ドロラータは足元を指差して見せる。ドロラータのぼんやりと光を纏う両足は僅かに地面から浮き上がっている。レスティンはそれを物珍しそうに見ている。
「落とし穴なんかの回避用の魔法。少しだけなら空中を歩けるし、泥跳ねや歩いてる時の足の負担を軽減出来るよう自分で改良もしてる。それと、ちゃんと来た道は魔法でマーキングしてるから。迷子になって泣く心配も無いよ。必要ならエクスにもかける?」
「いや、俺の事はお気遣い結構だ! 生まれつき足腰には自信があるのだ。俺よりも二人の方をフォローしてやってくれ。それにしても、流石はドロラータさん。こんな時でも頼もしいなあ!」
 ただ純粋にドロラータの魔法に感心するエクス。
 実際、勇者エクスはこういった補助魔法を必要としないだろう。泥跳ねはともかく、夜目が利くなら滑落もしないし、したところで身体能力でどうにか助かってしまうはず。幾ら歩き続けても疲れはしないだろうし足も痛まない。そもそもこの魔法は体力の劣る自分が旅について行くためのものだ。ここまで魔法で強化しておかなければ人並みにも長く歩けない。そして、そんな自分をエクスの無茶から守る保身の意味合いもある。最も優先すべきは自分の身の安全なのだから。
「おっと、ところでみんなは疲れてはいないかな? そろそろ小休止を入れた方が良いかな」
「いいえ、結構です! 早いとこ調査を終えて街道へ戻りましょう!」
 こんな真夜中の獣道で落ち着いて休めるものか。レスティンは表情を引きつらせながら即答する。
 レスティンは体格の割に小心者な部分がある。シェリッサは人並みに心配性な部分もあるが、周りに流されやすく特に押しには弱い。こういった分析は今後二人を出し抜いてエクスを魔導連盟に勧誘するのにどこかで役に立つ。こちらは虎視眈々と準備をしながらエクスの信頼も集め始めているのに、未だ何もしていない二人は随分と悠長だ。
 この二人が相手なら案外楽に終わりそうだ。そうドロラータは内心ほくそ笑んでいた。