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こちらの要望に対して反応してくる。その仮説を確かめるべく、エリックは試すのに適切な言葉を考える。そしてマリオンと打ち合わせをした後、早速その言葉を発してみた。
「部屋が眩し過ぎる」
エリックは取りあえず天井に向けてそう発してみた。そこで聞いている訳ではないが、何となくイメージとして何者かはそこに居るような気がしたからだった。
エリックが言葉を発すると、程なく周囲は唐突に薄暗くなった。夕方よりも少しばかり日が傾いたくらいの薄暗さである。
「思ったよりもすぐに反応してきましたね」
「しかも、本当に眩しいかどうかは判断していないようだね。ただ単にこっちの要望を聞くだけみたいだ」
そしてエリックは、更に検証を進める。
「部屋が暑い」
すると今度は、部屋の温度が急激に下がった。それは段階を踏むような冷え方ではなく、いきなり寒い場所へ放り出されたような冷え方だった。しかも、室内だというのにほんのりと風が吹いている。体感温度は一気に下がった。
「部屋が寒い」
あまりの寒さに、エリックは思わず次の言葉を発してしまった。すると温度はまたしても急激に上がり、元の室温に戻った。今度は一気に適温を飛び越して暑くなるかと思ったが、そこまで加減を知らない訳ではないようだった。
「即座に応えてくれますね。取りあえず、明るさも元に戻しておきましょう。部屋が暗いですよ」
マリオンの要望に対し、すぐに部屋の明るさは最初と同じに戻った。エリックとマリオン、どちらの要望にも応えてくれるようだった。
「僕達二人共、接待の対象のようだね。それじゃあ、今度は相反する要求を同時に出してみようか」
「あ、エリック先輩。それならもっといい案がありますよ」
マリオンの案を確認した後、マリオンが再び天井へ叫ぶ。
「私達を外に出して下さい」
しかし、今度はいつまで待っても二人が外へ出るような事はなかった。
「うーん、やっぱりこれは駄目みたいですね」
「僕達二人をここに留めるのが目的というのは、これで確定と思って間違いないかな。となると、次はその理由か」
「何でしょうね。御飯もベッドも出してくれるなら、生かしてはおきたいみたいですけど」
「飼い殺しにして何かメリットがあるのかな……」
そう考え始めたエリックだったが、どうしても頭が回らず、再びその場に腰を下ろしてしまった。
「エリック先輩? 大丈夫ですか?」
「うん……何だか、とにかく怠くて仕方ないんだ。どうしてだろう……」
エリックの全身を襲う倦怠感は、先程よりも悪化していっていた。前の部屋の時は少し休めば回復したが、今はこうし座っていても回復するどころかどんどん全身に倦怠感が広がっている。このまま座っていても回復するような見込みが無いように思う。
「何か、本当におかしいなこれ……。風邪って訳でもないだろうし……」
「やっぱり、ベッドで横になった方がいいでしょうか?」
「いや、それだけは止めておきたい。何か仕掛けがあるかも知れないから」
自分達をここに留めておこうとする者に、純粋な善意など期待していない。何かしら陥れるための仕掛けが施されているかも知れないのだ。
「マリオンこそ本当に平気? 僕なんかよりずっとここにいるのに。無理に我慢してない?」
「いいえ? 私は本当に平気ですよ。やっぱりエリック先輩の方こそ、本当に風邪か何かなんじゃないでしょうか。だったら早く何とかしないと」
マリオンには何の異変も感じられないらしい。それは気を使っているという訳でもなさそうだ。
「もしかすると、この屋敷が僕に対して攻撃を仕掛けているのかも知れないね。こう、知らず知らずの内に体力を奪うような。そうやってここで行き倒れさせるのが狙いなのかも」
「エリック先輩にだけ、そういう事を仕掛けてるんでしょうか? どうして私には何もして来ないんでしょうか」
「多分……マリオンにも実際仕掛けているのかも。ただ、僕の方が早く影響が出て来ただけとか……」
疲れの有無と言うより、体力的な格差なのかも知れない。
それはともかく、エリックは自分の疲労感が見る見るうちに強まり体が重くなっていくのを感じた。どうやら残された時間はあまりないようである。
「エリック先輩!? しっかりして下さい! どうしよう、このままだときっと危ないよ……」
よほど衰弱しているように見えるのか、マリオンは顔色を青ざめさせておろおろし始めた。自分はそこまで困惑するほど酷い様子になっているのか。エリックもまた危機感がこれ以上に無いほど高まっていく。
何か良い策は無いのか。けれど、どれだけ必死になってももはやエリックの頭は疲労でまともに回らなくなっていた。
「大丈夫ですよ、エリック先輩。私が絶対に何とかしてみせますから」