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首相直轄の独立組織である特務監査室は、基本的に他組織と連携した行動をする事はない。しかしラヴィニア室長の情報源は一つでも多い方が良いという運営方針により、様々な行政機関と細く長い付き合いがある。距離感は時々で様々だが、現在は共通の目的があるため話は早い。
庁舎旧館の片隅には、あまり知られてはいないが国家安全委員会の分室の一つがあった。主に官吏の動向について独自調査や監視を行っているが、その内容を知っている者はほとんどいない存在感の薄い場所である。エリック達は幾つかの書類と共にこの分室を訪れた。
「それで、お話とは」
対応したのは、分室長の男性だった。名前は名乗らず、簡潔に目的と結論だけを求めるような口調だった。
「例の連続通り魔事件についてです。情報交換を希望します」
「では、交換の条件は?」
「犯人が使用していると思われる武器の情報、それと被害者以外からの銃弾です。代わりに、ケネスという男についての最新の身元情報を要求します」
「ケネス……なるほど、そういう事ですか」
分室長は、ケネスという名前についてあまり意外そうな表情をしなかった。むしろ、特務監査室からその名が出た事に納得しているようにさえ見えた。
「ケネスは五人目の被害者、もしくは容疑者と考えているという事ですね」
「えっ?」
分室長の言葉に驚きの声をあげたのはマリオンだった。容疑者という線はエリック達も考えてはおらず驚きはしたのだが、それは表情に出して欲しくなかった、そうエリックは思った。
「隠さなくとも結構です。我々からも必要な情報は提供しますよ。物証については戴きますが」
国家安全委員会としては情報よりも物証の方を欲しているのだろう。エリックはウォレンに目で合図すると、ウォレンは持参したリュックから例の丸太を取り出しテーブルの上へと置いた。
「聖都大自然キャンプ場から採取しました。このキャンプ場には、被害者四人の他に件のケネスの利用記録が見つかっています」
「存じています。五人は何らかの協力関係にあった、しかし仲違いした事でケネスが四人を殺害した、と」
「彼らの目的と殺害手段に使われた物は同じと考えています」
「しかしそれがはっきりとしない訳です。当然ですが、狙撃の難しさは御存知ですよね?」
「はい。ですので、我々は既存の技術では有り得ない銃が作られたと考えています」
「要するに、撃てばどこにいようが絶対に当たる銃という事ですよね? 確かにそんなもの有り得ないと思いますが、特務監査室が動いているという事はやはり本当に実在するのですか」
「い、いえ、それは流石に……。我々が想定しているのは、携帯出来る小型の銃です。それなら確実に当たる距離まで接近出来ますし、大勢居る中でも袖の中などから撃てば目撃者は出ませんから」
「あ、ああ……そうですよね……」
国家安全委員会はとんでもない想像をしていたようである。だが現実主義の彼らでも、そう思わざるを得ないような状況だったのだろう。
「話を戻しますと。被害者達はおそらくそれぞれの技術や資材を持ち寄り、キャンプ場で試射しながら携帯銃を密造したのだと思います。その後に何らかの理由で、ケネスがその銃を使って四人を殺害したという事になりますね」
「そうなりますね。最初は我々も彼が次の被害者候補と思っていたのですが、一つ不自然な記録を見つけましてね」
「不自然な記録と言いますと?」
分室長が見せてくれたのは、どこかの企業の顧客リストらしい書類だった。
「クワストラから硫黄を個人輸入しています。名前はセロンとあり被害者の一人ですが、発注した日時を考えてセロンは死亡しており注文主にはなり得ません。おそらく、ケネスが騙っているのでしょう。硫黄は弾薬の材料の一つで、セディアランドでは産出されません。となると、セロンを知り弾薬を製造出来るのは残るケネスだけとなります。つまり彼が容疑者、最低でも重要参考人にはなる訳です」
弾薬の材料を輸入しているというのは新しい情報である。これまでは被害者のセロンが調達していたため、あまり目立たなかったのだろう。こうも迂闊な行動を取る所から察するに、ケネスとは案外迂闊な人物なのかも知れない。しかしそれは、決して良い事ではない。簡単に人を殺傷出来る武器を、短慮な人間が所持しているという事だからだ。
「荷物が届くのはいつですか?」
「明日の第一便、朝の五時頃です。受け取り方法は代行会社の配達拠点へ直接手渡しとありますから、そこにケネスは来るでしょう。物証もある以上、当局も流石に確保に動くはずです」
「我々も参加させて貰います。彼の銃は決して世に出回らせてはいけないものですから」
「ええ、まったくです」