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 聖都大自然キャンプ場は、意外にも聖都から馬車で二時間もかからないほどの近郊にあった。舗装路からやや外れた森林地帯を開墾し整備した土地で、テントを使った本格的なキャンプから気軽に楽しむためのバンガローまで、充実した設備揃いだった。仕事を抜きにして来てみれば、ここはちょっとしたレジャーには最適だっただろう。
 エリック達は早速管理人の常駐するバンガローを訪ねた。まだ朝早い時間ではあるが、宿泊した利用客もいるためか管理人の青年は非常に慣れた素振りだった。
「警察の者です。責任者の方とお話がしたいのですが」
 エリックは予め用意していた偽の身分証を青年へ提示する。青年は警察が来る事に驚いていたが、それは単純に今まで縁がなかったためだろう。
「この時間ですと、自分しかいなくて……。基本、オーナーは朝は遅いですから」
「ではあなたで結構です。利用客の帳簿を見せて頂きたい。事件の早期解決にご協力をお願いします」
「わ、分かりました。何か事件が起きたんでしょうか?」
「捜査情報については話せませんので」
 身分を偽る事は特務監査室としてたびたびあったが、特に警察だけは未だにエリックは抵抗があった。警察官という身分はそれだけで市民を威圧しかねず、いつも申し訳ない気持ちになっていた。
 青年に奥にある事務所の中へ通される。そこは普段の業務の他、管理人の待機兼仮眠室も備えているのか、事務机や書類棚の他にベッドや台所まで揃っていた。
「すみません、むさ苦しい部屋で。利用者台帳はこの棚になります。下の方ほど古いものになりますので」
「では、しばしお借りします」
「自分はさっきの所に居ますので。終わったら声をかけて下さい」
 青年が部屋から出て行くのを確認すると、早速四人は書類棚を漁り台帳の確認を始めた。
「やっぱり朝イチで来て良かったねー。あの様子だと、まだここに警察は来てないみたい」
「別に後からでも良かったのでは?」
「何言ってんの。押収されたら中身見にくくなるじゃない」
 まずは直近一ヶ月以内に絞り利用者と被害者の照合を始める。
 最初の被害者。クラークは小さな製鉄所に勤める鍛冶師である。犯行は夕方六時過ぎの帰宅途中の路上という、非常に大胆不敵なものだった。帰宅時間という事もあって現場には多くの人間が通行しており、銃声を聞いた者は多くいた。しかし不審人物の目撃証言が無く、現在に至っても犯人どころか犯行の手口すら分かっていない。
 二人目の被害者。フランシスは冶金工業の技術職社員だ。犯行は朝の八時過ぎ。自宅を出てすぐの路上で銃撃されている。これも一件目同様に銃声だけで犯人の目撃証言が無い。
 三人目の被害者。エルマーは製鉄資材メーカーの営業マンだ。犯行は夜九時の繁華街で、これまでの事件で最も現場に居合わせた人間の多い事件だ。やはり有力な犯人の目撃情報は無い。
 四人目の被害者。セロンは工業用の化学薬品の製造販売を行う会社の研究員である。犯行は夕方の六時頃。職場を出て間もなくの所で銃撃されている。やはりこの件も有力な目撃証言は無い。
 いずれも通行量の多い時間帯に犯行が行われている。にも関わらず犯人の目撃証言が無いのは、目立たない場所から被害者を狙撃した意外には考え難い。しかしそれは、銃を撃った経験もあるウォレンにしてみればまず有り得ない程の精度だと言う。ならば犯人は、どうやって誰にも見られないように、かつ正確に銃撃が出来たのだろうか。
「あ、被害者の名前ありましたよ。しかも日時も一緒です」
 そう声をあげるマリオン。すぐにマリオンの指し示す台帳の箇所を見ると、確かに被害者四人の名前が同じ日時に利用者として別々に記入されている。
「別々という事は、お互い面識は無いという事でしょうか?」
「いや、あるからこそかも知れない。何かそうしなくてはいけない後ろ暗い理由があったのかも」
 もしもそうなら、彼らはたまたま通り魔に無差別に襲われた被害者という訳ではなくなる。何かしらこのキャンプ場に殺された理由があるのだろうか。
「何だか結構前から四人で来ていますね。一体何のためでしょうか」
「よし、じゃあガイシャが使った施設の辺りとか調べてみようぜ。もしかしたら何か分かるかもしんねー」
「そうですね。ここは地道に行きましょう」
 四人が最後に利用したのは半月前である。物証が残っている可能性は低そうだが、今はここから掘り下げて行く他無い。もしも被害者の法則性が分かれば、これから起こるかも知れない事件も未然に防ぐ事が出来るのだ。
「……ん?」
 台帳を元に戻そうと思った、その時だった。ふとエリックの目に、とある利用者の名前が止まった。エリックはその名前が引っかかり他のページと見比べていく。そして程なくエリックの予感は的中している事が分かった。
「この人! ずっと四人の被害者と同じ日時に利用しています! これ、もしかすると次の被害者になるんじゃ……!」