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検死官に更なる事情を確認したが、現状以上の情報は得られなかった。胸の小さな火傷のような痕についても経緯は不明で、そもそも初めからあったのではないかという結論らしかった。しかも以前の被害者はそれすら確認の記録が無く、早くもエリックの見つけた突破口は暗礁へ乗り上げてしまった。
エリックは特務監査室の権限により、これまでの一連の事件についての捜査資料の写しを閲覧する事にした。一番の手がかりになるはずの検死記録があまり信用ならない以上は、こちらから辿って行くしかなかった。
資料室で三人は、資料を読み込み、時に突き合わせながら共通点がないかを探っていった。しかし、いずれも住んでいる場所や交友関係、職業と共通点が無く、本当に無作為に選ばれたとしか思えなかった。仮に被害者達に共通点が無ければ、本当に単なる愉快犯的な通り魔だった事になる。リスクも高く手間もかかる銃の狙撃による殺人、そこにあえてこだわるのには相応の理由があってしかるべきと思うのだが。それは被害者達にではなく、犯人にとってのもっと個人的な信条なのだろうか。そうなると尚更これ以上の捜査が難しくなる。
「かーっ、ホント訳わかんねー。これ、マジでただの通り魔じゃねえのかよ。どう考えてもガイシャに接点なんかねえぞ」
ウォレンは資料をテーブルの上に投げ出すと、イスにだらりともたれかかり天井を仰いだ。
「資料からでは限界のような気がしますね。いっそ、被害者達の交友関係を全て聞き込みに行きますか?」
「でも、流石にそれはもう警察の方がやってるんじゃないかな」
「確かにそうですね。まず初動捜査では、人間関係を洗うのは基本ですから」
元警察官であるマリオンがそう言うのである。恐らく事件についての情報は資料にある事が本当に全てなのだろう。となると、特務監査室としての進展はこれ以上見込めない事になる。犯人を捕まえる事が出来なければ、そもそも自分達の管轄かどうかも完全に判断する事が出来ないのだ。
「ところで、ルーシーのやつはどこ行きやがったんだ? アイツ、解剖の時すらいなかったよな?」
「まあ、ルーシーさんはああいう人ですから……」
「おめーあんま甘やかすなよなあ。幾ら先輩でも、今はお前の方が立場が上なんだぞ」
ルーシーの協調性の無さは今に始まった事ではない。注意した事もこれまでに何度もある。立場の事は理解しているが、それが少なくともルーシーにとって何の意味も無い事も理解している。ルーシーは肩書きではなく自分の基準でしか人を見ないのだ。
一通りの資料を確認し、今回の所は諦めて片付けを始めた時だった。いつの間にか姿を消していたルーシーが、ふらりと資料室へ入ってきた。
「あ、そっち終わった?」
「終わったじゃありませんよ。どこに行ってたんですか」
「んー、捜査本部に入れる刑事を片っ端からね。知り合いとか、説得が効くやつとか色々いたんだー」
ルーシーの交友関係は不明だが、元々所属していた外務省関係以外にも知り合いは多いらしい。その辺りはラヴィニア室長とも似ている。
「捜査本部って、何でまた?」
「本当の最新情報が欲しいからじゃない。わざわざ紙に清書してるのなんて、古いのじゃないの?」
ああ、とマリオンが声を漏らす。捜査資料を清書するサイクルを思い出したのだろう。
「それで、何か成果はありましたか?」
「ぼちぼちかなー。取りあえず、被害者達が定期的に行ってた場所が分かったよ」
「それってつまり、共通点があったという事ですか?」
「そういうこと。まだ裏取り中だけど、ほぼ間違いないらしいよー」
この捜査資料には、被害者達の共通点は書かれていなかった。それは会社や出身学歴等々に接点がなかったからである。その他の部分で接点が見つかったのなら、それは捜査線上の大きな進展だ。
「はい、これ。明日行ってみよ。朝イチでねー」
そう言ってルーシーが手渡してきたのは、何かのチラシだった。
「大自然を満喫、心と体をリフレッシュ、聖都大自然キャンプ場……? これ、キャンプ場のチラシですね」
「そう。被害者の四人はね、みんなここへ定期的に来ていたそうなの」
「たまたまじゃねーの? リフレッシュ目的なら珍しくねーだろ」
「被害者には家族持ちもいるんですけどー? それなのに男一人で行ってるなら、それはそれで怪しいじゃない。これでキャンプ場の名簿確認して、利用した日時が一緒なら決まりじゃない。四人には接点があり、それがキャンプ場に関わる何かで、殺される理由もそこにあるかも知れないっと」
確かにルーシーの言う事には筋が通っている。彼らが同じキャンプ場を使っていたのは確実なのだから、それが日時まで同じだったら何かしらそこに理由はあるはずである。そもそも彼らが交友関係にあるとなれば、犯人の手がかりも見えてくるだろう。
「んじゃ、明日は朝イチで行くからねー。庁舎近くの馬車乗り場に集合! 道具とか食べ物は全部現地で用意してるってから、手ぶらで大丈夫よ」
「遊びに行くんじゃありませんよ、まったく」