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「それでは、私はこれで」
 三人が丁度クロヴィスの自宅へ着いた時、一人の青年が家の中から出て来た。それをクロヴィスの母が見送る所だった。
「あ、ホーマーさん。こんにちは」
「やあ、クロヴィス君。今お帰りかい? そちらの方々は?」
「聖都からいらっしゃった役所の方です。村の環境調査を行っているそうです」
「そうですか。遠くからわざわざご苦労様です。それでは私はこれで」
 ホーマーと呼ばれた青年は、丁寧な挨拶をしてそのまま向かい側の家の中へ入っていった。
「ホーマーさん、どうかしたの?」
「いえ、今年のリンゴを親戚から戴いたのだけど、一人では食べきれないからってお裾分けで戴いたのよ」
「やった! ホーマーさんとこのリンゴは美味しいから大好きなんだ!」
 そう年相応にはしゃぐクロヴィス。
 見た所、あのホーマーという青年はクロヴィスやその家族には特に偏見もなく普通に近所付き合いをしているようである。
「それで……あの、何か分かった事はありますでしょうか?」
「はい、一旦今日で分かった範囲でお話させて戴きます」
 そしてエリックは今日の聞き取り調査で分かった事をクロヴィスの母親に説明する。クロヴィスを虐めた加害者が標的とされていること、しかし例外も存在しその理由まではまだ分かっていないこと。それでも状況が整理されつつあるからか、クロヴィスの母親は最初よりも幾分か安堵した表情を見せていた。訳の分からない事に巻き込まれている、そのストレスが緩和されるだけでもエリックにとっては仕事のやり甲斐を感じる。
 明日に改めて伺う約束をし、その日二人は村長の屋敷へ宿泊した。そして一夜明けた翌朝の事だった。朝食を戴いていると、一人の青年が慌ただしく駆け込んで来た。
「村長! 大変だ! また出やがった!」
「何ですか、騒々しい。お客様がいらっしゃると言うのに」
「死人だよ村長! 今度はホーマーがやられた! またあのガキの仕業に決まってる!」
 興奮した様子でそう語る青年。たちまち村長は顔から色を失った。そしてエリックとマリオンもまた、一度顔を見合わせ緊急事態だと確認し合う。
「すみません、亡くなったホーマーというのは、あのクロヴィスの自宅の向かいの?」
「あ、ああ。そうだ。今日は朝から山狩りへ出掛ける約束をしてたんだ。それが約束の時間になっても来ないもんだから、変だと思って今し方家に直接行ってみたんだ。そしたら、ホーマーが玄関の入ったすぐ先でぶっ倒れててよう」
「どんな様子でした?」
「そんな専門的な事は分かんねえけどよ、何だか首の周りを掻き毟ってたみてえでさ、舌と目が飛び出て本当にひでえ有り様だよ。あいつが一体何しやがったってんだ! 村長、やっぱりあのガキは村から追い出しましょう! このままじゃみんな殺されちまう!」
 あのホーマーが死んだ。エリックが次に考えたのは、その死の法則性だった。昨日見たホーマーとクロヴィスの仲は、どう見ても良好だった。クロヴィスもホーマーをそれなりに慕っていたようだし、ホーマーはホーマーでお裾分けをするなど気遣いも見せていた。双方に動機がない。しかしその異様な死に様からして、まず間違いなく一連の不審死と同じである。クロヴィスの隣一家の件もそうだが、クロヴィスへ危害を加えた者が標的になる法則はやはり根本から誤っているのだろうか。
 すると、考え込んだエリックに対してマリオンが唐突に提案をしてきた。
「先輩、これからクロヴィスの母親の所へ行きませんか? 私、もしかすると分かっちゃったかも」
「分かったって、法則性が?」
「多分ですけど。なので、それを確かめに行くんです」
「クロヴィスじゃなくて母親の方に?」
「はい。あとそれと、あなたにも」
 そう言ってマリオンは駆け込んで来た青年を指名する。
「ホーマーさんとは仲が良かったんですか?」
「あ、ああ。あいつとは幼なじみで兄弟も同然だ」
「何でも話せるような仲?」
「まあ、大概の事はな」
「じゃあ、もしかしてホーマーさんはクロヴィスの母親のことが好きだったりしません?」
 その指摘に、一同は思わず息を飲んだ。人の生き死にの話をしているのに、まさかそんな下世話な話題になるとは思ってもみなかったからだ。
 思わずマリオンを制止しようとするエリック。しかし、青年はあっさりと質問に答えた。
「確かにそんな事も言ってた。いやでも俺は、人妻はやめておけって釘を刺しておいてはいたんだが……。ん、なにか? もしかしてそのせいでホーマーは死んだっていうのか!?」
「もしかすると、って程度ですよ。さ、先輩。早速行きましょう!」
 マリオンは青年の反論に耳を貸さず、エリックと強引に連れ立って屋敷を後にした。