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二人が学校へ到着すると、丁度校門から次々と子供達が飛び出していくのが目に入った。どうやら小学生の方は授業が終わったタイミングだったようである。
「どうします先輩? クロヴィスって子を探します?」
「そうだね、誰か手当たり次第訊いてみようか」
そして二人は意気揚々と帰ろうとする子供達に早速クロヴィスの事を訊ねてみることにした。
「ねえ、私達は聖都の役所の人間なんだけれど。クロヴィスって子、知らない?」
子供への当たりの良いマリオンが優しくそう訊ねる。しかし子供達の表情は一変して不安を滲ませた。どうしたら良いのかと互いに顔を見合わせてまごつく。明らかにクロヴィスの名前に対する反応だ。
「あ、別に変なお話じゃないのよ。私達、クロヴィスって子に会いたいだけだから。どこにいるかだけでいいから、教えてくれないかな?」
「それなら……今は校舎裏に居ると思う。帰る前はよくそこに行ってるから」
子供達の一人が恐る恐る答える。ありがとう、とマリオンは笑顔で応えるが子供達は用は済んだとばかりに一目散に去っていってしまった。そんなにもクロヴィスは生徒達から恐れられているのか。二人は予想以上の反応に困惑する。
「エリック先輩、これって相当ですね。少なくとも生徒達は、クロヴィスって子について話す事すら怖がってるみたい」
「身近な生徒が死んでいる事もあるからね。とにかく、校舎裏に行ってみよう」
二人は校門をくぐり校舎裏へと向かう。先に教師への挨拶をするべきとも考えたが、クロヴィスと話をするのに口を挟まれたくないという事情もある。挨拶はあえて後回しとする事にした。
校舎裏へやって来ると、そこはあまり手入れをされていない庭になっていた。何本か植樹がされているが、散った葉がそのまま地面に散らばっている。そして周囲の雑草も気持ち刈られている程度に伸びっ放しだ。そんな中にも幾つか錆び付いたベンチが置かれているのだが、その内の一つに一人の男の子が座っている姿を見つけた。あれがクロヴィスだろうか。二人は早速近付いて話し掛けてみる。
「君がクロヴィス、かな?」
話し掛けたのはエリックだった。クロヴィスはまだ得体が知れない。その思いからマリオンを下がらせる。
「はい、そうです。お二人は? 学校関係者ではなさそうですが」
「聖都の役所の人間です。僕がエリック、こちらがマリオンです」
「聖都……失礼ですが、どちらの所属でしょう?」
「総務省の生活環境課です。こちらのケルク村の事件について調査に参りました」
エリックはあらかじめ用意しておいた偽の身分証の内の一つを提示する。クロヴィスは妙に注意深くその記載内容を確かめる。
「生活環境課……あ、すみません。聞き覚えのない部署名で」
「いえ、小さな部課ですから」
クロヴィスはまだ八歳の少年である。見た目こそ年相応であるが、今の話の受け答えはとてもそうは思えなかった。まるで同年代以上の大人と会話しているようである。エリックの話し方も自然と合わせた物になる。そして、生活環境課という架空の部署名を訝しむ辺り、そういった政府の組織的な知識も多少なりとも持ち合わせているようだった。たまにいる、早熟なタイプなのかも知れない。
「どうぞ。それで、お話は僕にでしょうか」
エリックとマリオンはやや固くなりながらクロヴィスに並んでベンチへ腰掛ける。
「ええ、そうです。この村で立て続けに不審死が起こっているそうですが、心当たりは?」
「八歳の子供に訊く内容ではありませんね」
そう言ってクロヴィスはクスクスと笑う。
「母さんや村長にお話は窺っていますよね? 僕の周りでは昔から何人も人が死んでいる。その事でしょう?」
「ええ、まあ……」
「僕は殺してませんよ。と言って済む問題ではないとも理解してますけど」
「では、偶然の死ではないという認識はあると?」
「そうですね。僕はこの村に来てからは虐められっ子でしたから。その僕を虐めると死ぬくらいの法則性は分かります。ただ、本当にそれだけかなと思ってもいて。うちの隣の家族が少し前に急死したのはご存知でしょうか?」
「何か揉めていたそうですね」
「はい。けど、言い争っていたのは僕の父なんです。庭の垣根の境界の事で。ここまでがうちの敷地だ、というありがちな話なんですよ。それが決着する前に急死してしまって。それで父は人の目から逃れるように出稼ぎへ行かなければならないことになってしまいました。心無い人から一方的に人殺し呼ばわりもされてましたから」
つまり、クロヴィスを虐めていた訳でないにも関わらず、その一家は不審死を遂げてしまった。クロヴィスを虐めた者が標的になる殺人事件ではないという事である。
「もしかして、事件が起こる法則性を探しているんですか?」
「ええ。君のお母さんも大分心を痛めていますし」
「そうですか。僕もあまり余計な気を使わせないようにはしているんですけど」
それは、クロヴィスが母親に対して言葉が少ない理由なのだろうか。話口調こそ大人びているが、その発想は年相応でどこか安心感があった。
「そろそろ自宅へ帰りましょうか。今度は二人同時にお話を聞かせて頂きます」
「はい、分かりました。今日は図書館に寄る用事はないので、真っ直ぐ帰ります」