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 ケルク村は資料で読んだ印象よりも栄えている雰囲気の村だった。二階建ての建物も多く、多種多様な商店や、外部と行き来するための交通手段として広い馬車乗り場まである。当然ホテルも何軒かあり、ならば気を使わなくて済む分こちらに滞在したかったとエリックは思った。
 二人は村の中心よりやや北にある村長の屋敷へ向かった。予め約束していた通り、すぐに応接間へ通され村長から事の詳細の説明と聞き取りを始める。
「ある程度御存知でしょうが、クロヴィスという子供がおりまして。どうにもその子の周囲では、昔から良く人が死ぬのです」
「昔からと仰いますと」
「あの子供がこの村へ来たのは四年ほど前でしたでしょうか。まあ特に目立たない普通の子供だと思っていたのですが。最初に死人が出たのは、越してから一週間ほどしてからの事で。死んだのは近所に住む、まあ言ってしまえば悪ガキグループの一人です。突然と川に落ちてそのまま。当時は不幸な事故だと思っておりましたが……」
「また次の死人が出たと?」
「はい。次はそれから半年後でしょうか。どこかからの行商人です。子供相手に阿漕な商売をする輩もおりまして、大人達はあまり快く思っていなかったのですが、どうにも子供達には魅力的に見えるようで。そんな連中の一人が突然胸を押さえて急死してしまいまして。医者によると心筋梗塞だとか」
「何故それがクロヴィスと関係していると?」
「現場に居合わせた者が何人かおりましてな。みんな口を揃えて言うのです。クロヴィスと話している時に苦しみ出した、と。それからもクロヴィスの周りでは、とにかく死人が良く出ました。それで信心深い老人なんかは、あの子供は呪われている悪魔の子供だなどと言うようになりまして」
 資料にあった九人とは、あくまで近年の事だけの内容だったようである。しかし、呪いはともかく確かにここまで立て続けに人が死ぬのは不自然である。何らかの意図が働いていると考えるのが自然だ。
「一番最近ですと、亡くなったのはクロヴィスの隣家に越してきた住人です。父母息子の三人が、突然と一晩の内に急死しました。クロヴィスの家族とは越してきた当初から時折揉めていたとは聞いていますが……流石にこうなっては偶然として放っておく訳にもいかなくなりまして、このように御相談させて頂いた次第です」
「分かりました。まずは、本人よりも近しい方からお話を伺ってみましょうか。今クロヴィスの御家族は?」
「父親は今月から外へ出稼ぎへ行ってしまいました。やはりこうも立て続けだと村でも噂されて仕事がし難いようで。母親は自宅で針仕事の内職をしていますよ。今なら居るはずです。クロヴィスの事で相談された事もありますし、お二人なら話も聞いて頂けるはずですよ」
「ありがとうございます。では早速向かってみます」
「今夜は屋敷の客室をお使い下さい。何分田舎の村ですので、大したお持て成しは出来ませんが……」
「そんなお気を使わなくて結構ですよ。それではまた後ほど」
 村長に挨拶をし、エリックとマリオンは屋敷を後にする。
 クロヴィスの自宅は、屋敷から歩いても二十分ほどとあまり距離は離れておらず、二人は徒歩で向かう事にした。
「何だか気味の悪い話ですね。近付くと人が死ぬなんて」
「でも、何かしら理由はあるんだろう。そうでないと、本来真っ先に死ぬのは家族な訳だから」
「ですね。そうなると、家族の誰かがクロヴィスに危害を加えた人を殺しているとか? 子供の復讐を親が代理する事件って、聖都でもたまにありましたから」
「可能性としてはあるけれど、答えを決め付けるのも駄目だよ。先入観は答えを見誤らせるから」
 クロヴィスに近付いた人間が死ぬ。これは確実な事実だが、誰彼も死んでいる訳ではない。そこには何か法則性がある。そして、何らかの理由でクロヴィスをだしにして人を殺す者がいる。手段と目的は分からないが、死んだ人間の法則性を解き明かせば犯人の手段と目的も分かるようになるはずだろう。
「ねえ、エリック先輩。いきなり母親に相談しても良いものなのでしょうか? 母親と息子の関係って、たまに怖いんですよ。息子の犯罪をかばうのに警官を襲うなんてこともあり得ますし」
「僕達は警官じゃないよ、って冷静に聞く相手という保証も無いか」
「一応、準備はしているんですけど」
 そう言ってマリオンが見せたのは、腕の半分ほどの長さの剣だった。短く鍛える事で携帯性を重視した片刃の小太刀。外装からして明らかに支給されたものではない。
「私、剣術は小太刀も出来るんです」
「それはいいけど……そういうのは本当に最後の手段だよ?」
「分かってます。あくまで護身目的にしか使いませんから」
 マリオンが武器を携帯するその不安は、おそらく警察官時代に実際そういった現場を体験して来た事から来るものだろう。追い詰められて豹変したり、そもそも危険な人物と関わる機会が多かったせいで、人をあまり信用しないのかも知れない。
 自分も、そういった腹積もりで挑まなければならないだろう。エリックも今の内から覚悟を決めておいた。