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「あの、兄様。これからどうなさるのですか?」
「あの、兄様。これからどうなさるのですか?」
クリムゾンサイズの陣営から遠ざかり、山道に出たその時。長い間押し黙っていたエルとシルが、思い出したように口を開いた。
エルとシルは相変わらず強く私の腕を抱き締めながら私を見上げてくる。しかし、その表情は普段の明るいものだ。
「ああ。聖都騎士団の元へ向かい、戦果報告をする。まあ、連中が生き残っていればの話だが」
「それは何と?」
「それは何と?」
「『クリムゾンサイズのトップ3に壊滅的ダメージ”は”与えた』だ。粛清、殲滅、排除等の言葉を使わない点が肝だ。二人とも、ちゃんと口裏を合わせておくように。疑念を持たれてしまっては、帰りの足が確保出来なくなるからね。ここから街まで歩く訳にもいくまい」
「はい、兄様」
「はい、兄様」
私の冗談めいた言葉に、にっこりと微笑むエルとシル。私の戯心を察して賛同の意を示す、悪戯っぽい色の入り混じった笑みだ。
「でも兄様。どうして見逃してしまうんですか?」
「一応、私達の勝ちだったのに。もったいないです」
「あの状況なら、勝負などついてしまったようなものだ。それに、少し思う所があってね」
「思う?」
「所?」
「我々も、そろそろ変わるべきなのかもしれない。いつまでも過去に縛られていないでな」
二人の表情が緊張の色を見せる。それは、私の言っている意味と同じものを二人もまた感じていた事の現れだ。
私達は過去を捨てたつもりでいながら、本当は強くそれに縛られていたのだ。行動指標を見ればそれは瞭然である。あらゆる行動パターン、物事の価値観が、何一つとして変わっていないのだ。
「でも、兄様。変わることはとても難しい事です」
「でも、兄様。人はそう簡単には変われません」
「分かっている。でも、始めなければ何も変わらない。いつまでもその場で足踏みしていても仕方あるまい。力そのものよりも、心を強くしなくてはいけない。あるべき有意義な力の使い道を今一度考えながらね」
はい、とこっくりうなづくエルとシル。そんな素直な二人の仕草に、私もまた微笑んで見せる。
そして、そっと私は二人の手から自分の腕を抜き、それぞれの腰に手を回して抱き寄せる。二人はされるがままに私にぴったりとくっついた。