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翌日。
俺とロイアは、セシアに指定された通り、アカデミーの校門に集合した。
本日から補修課題である、例のアカデミー通り魔事件の調査が始まるのだ。正直、こういった事に拘わるのはあまり気が進まないが、俺は進学と退学を天秤にかけるほどバカでもない。
とにかく、それなりに頑張った、と学生特権で過程を評価してもらおう。犯人を捕まえられなかったからといって、除籍することもないだろう。セシアや、あの性格の破綻した兄妹は、アカデミーの中でも指折りの優秀生徒なのだから。俺達劣等生だけ除籍、という線も考えられるが、まあ、幾らなんでもそこまで横暴な真似はしないだろう。
「それで今日は何を?」
「本日は情報収集を行います」
そう言って、セシアはくるっと踵を返し、園内に向かって行った。
相も変わらず、表情の乏しい淡々とした態度だ。言葉こそかわすものの極めて事務的な対応ばかりで、まるで見えない壁を張っているかのように距離を取ろうとする。まあ、俺達のような劣等生を押し付けられたのが気に食わないのか、元々人間嫌いなのか。顔立ちは俺好みだけど、その刺々しい表情が印象を悪い方向に持っていっている。
「ちょっと待て」
「何か?」
「情報収集ってのは?」
「通り魔事件についてです」
「事件の何に? いや、ひとえに通り魔事件って言ってもさ、犯人像とか被害者の状況とか、色々あるだろ? ターゲットにしたって、まず、その日にアカデミーにいた人間を集めてからの方が効率的な訳だし」
「……とにかく、関連事項全てです」
これ以上の追求を避けるかのように、再びくるっと踵を返して歩いていった。
なんだかなあ……。
随分と強引な調査方針だ。自分と同期生の魔術学科の男を探せ、としたら、とにかくアカデミーにいる人間を片っ端から問いただしていくようなものだ。数打ちゃ当たる的な、気の遠くなる捜査である。
お世辞にも、彼女は少々こういった捜索には向いているとは言えない、と思った。
ロイアと顔を見合わせる。俺と同じ事を思っていたらしく、微苦笑を浮かべていた。
「さて、リーム。あの彼に聞き込みを」
ヴァルマが勝ち誇ったかのような表情で、私にそう指示する。
今日から、理事長に言いつけられた補修課題をやらなくてはいけなくなった。内容は、ここ何週間の間にアカデミーの敷地内に出没している吸血通り魔を捕まえろ、みたいな感じのものだ。
まあ、相手がなんであろうと、そんなヤツなどは速攻でボコにして、さっさと課題を終わりにし、試験休みを楽しもうと思っていたのに。
今日のやる事は地道な情報収集だった。この陰気なヤツが、そう決めたのだ。
なんで私が……。
他人にそう指図されるのは心底嫌だったが、今ここで下手に逆らって、この双子を一度に相手にする訳にもいかない。脳みそが沸騰しそうなほど腹が立ったが、私は渋々と従う。
「ねえ、ちょっと。訊きたい事あるんだけど」
「ん? お前、もしかして、格闘技科のタチバナか?」
すると彼は、逆に私に訊ね返してきた。
「だったら?」
「あのな、その態度はなんだ? 先輩に対して」
「ああ? アンタも格闘技科? いちいちうっさいわねえ。いいから、さっさと喋ってくんない?」
「武道は、礼に始まり礼に終わる、と習わなかったのか? まったく、噂どおりだな」
「だからなに? さっさとしてよ。おとなしく喋るか、それとも、私に喋らされるか。選んで」
「こうも無作法な人間が後輩だとは嘆かわしいな……。悪い芽は、この場で摘んでおくのが世のため人のためか」
そう言って彼は、着ていた上着を脱ぎ捨てると、大きく深呼吸をしてゆっくりと身構えた。
「ハン。そう、喋る気にして欲しいの。ふうん。ま、いいわ。ちょうどイライラしてたトコだから」
この先輩風を吹かす男の態度は気に食わなかったが、向こうがやる気になってくれたのは好都合だった。これで、こいつをブン殴る正当な理由が出来る。
準備体操の代わりに指を鳴らしてほぐす。相対峙して、こちらもゆっくり構える。
「やれやれ、何をやっているのやら……。エル、シル」
と、その時。
あの双子が、目の前で構えているヤツの左右に挟み撃ちをするように歩み寄った。
「ちょっと、邪魔しないでよ」
が、
「リーム、二人に任せておきたまえ。君よりもはるかに早くカタをつけてくれる。そもそも我々は、暴力を揮いに来たのではないのだよ。それとも、理事長に直訴するかね?」
理事長の名を出されてしまうと、私にはこぶしを引くしか選択肢はなくなってしまう。まったく、こういう陰気で陰険なやりかたが本当に嫌いだ。
「ん? なんだ、お前達?」
今度は、二人はヤツの両肩にそれぞれの腕を置き、まるで内緒話でもするかのように顔を近づける。
「まあ、可愛い彼女ですねえ」
そう言ってエルフィが出したのは、一枚の写真。
「あら、こちらも可愛い彼女ですねえ」
続いてシルフィも写真を取り出して見せた。
次の瞬間、ヤツの顔色が見て分かるほど青ざめていった。
「男の方は、どちらもあなた」
「けど、女の方は違う方ですねえ」
「ちょ、ちょっと待て! どこでその写真を!?」
「さあ? どこでしたでしょうか?」
「大声で叫んだら思い出すかも」
せーの、と大きく息を吸い込む。
「うわあああ! やめてくれ! 分かった、知ってる事は何でも話すから! 二人には黙っててくれ!」
ヤツは態度を一変させ、急に卑屈になってしまった。
「黙っててくれ?」
「黙っててくれ?」
「……だ、黙っていて下さい」
血が滲みそうなほど唇を噛みながら、必死の形相で頼む。その卑屈な態度に、エルフィとシルフィは満足げに笑みを浮かべた。ヴァルマの嫌味臭い笑みを連想させる笑みだ。
「とりあえず、この写真は返しましょう」
「ちなみに、ネガはこちらにありますので」
「くそ……」
「あ、それと。これからは私達の捜査に協力するように」
「明日までに、各科五十パーセント以上の調査をレポートにして提出する事」
TO BE CONTINUED...