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「効率的に調査を進めるため、二つのチームに分けようと思う」
 食堂にて飲み物を飲みながらの会議。まず最初に、ヴァルマがそう提案した。
「七人揃って同じ事をやっても意味はない。二チームに別れ、それぞれの裁量で調査を行い、一日の終わりに互いに得た情報を交換する、と。多角的な調査だな」
 確かにいい考えだ。七人揃ってぞろぞろ歩いていては、まるで蜂の引越しである。ならばと、各自一人一人で動いては、かえって調査が中途半端になって能率が落ちてしまう。ヴァルマの言う通り、スリーマンセル以上で動く方が適切だ。
「じゃあ、チーム分けはどうする?」
「それぞれには得意とする分野がある。それをバランス良く分けよう。物理系と間接系だ」
 俺は魔術師だから間接系だ。とは言っても、まだ基本しか出来ないが。ヴァルマ、セシアも間接系。リーム、ロイア、エルフィ、シルフィは物理系だ。
「私は兄様と同じチームね」
「私は兄様と同じチームね」
 エルフィとシルフィがすぐに手を上げて名乗り出る。まるでゲームのチーム分けをしているかのような軽い乗りだ。まったく、事を分かっているのだろうか?
「セシア、君はどうする?」
「そうね。じゃあ私は、彼を取るわ。あなたは、魔術師は二人もいらないでしょう?」
「御明察」
 さっきと全然違う事を言っているじゃないか……。って、そういや魔術師は俺とヴァルマだけだったっけ。
 ヴァルマは俺と同じ魔術師だ。ただ、俺とは比べ物にならないほど成績は優秀だ。だから同じという表現は、少々気が引けてしまう。
「あと、こちらの彼女も。あの彼女、少し私の手には余りそうだから」
 賢明な判断である。
 先ほどロイアがリームをビビらせたのにはいささか驚いたが、基本的にリームは唯我独尊タイプなので、周囲がついてこれないか振り回されるかのどちらかなのである。リームを扱うには、強い統率力を持っていなければ不可能だろう。
「ふむ。分かった。まあ、扱いやすそうな逸材ではあるしな。誰か意見のある者は?」
「はい」
 と、ロイアが手を上げた。
「チーム編成の事ではないのですが、私、槍術しか出来ないので、素手ではあまりお役には立てないと思うのです。昇華は使えますが、せっかくのその力も、槍なしでは生かせないんです。ですから、調査中は常に槍を携帯するべきでしょうか? 割とかさばりますし、何より目立ちますから」
「武器に関しては、基本的に全員常時常備だ。理事長の許可も得てある。トラブルがあった際は、超法規的に計らってくれるそうだから、心配は要らない」
 はあ? 常時常備って?
 俺は思わず席から立ち上がった。
「待て待て待て。どうして武器が必要なんだ? たかが調査で」
「意見がある時は挙手」
「意見がある時は挙手」
 すかさず、エルフィとシルフィが俺の揚げ足を取ってくる。
「ああ、分かったって! はい! 意見!」
「どうぞ、ガイア君」
「どうして調査如きに武器が必要なんでしょうか?」
「威圧するには丁度いいからだ。本気で使う仕草を見せれば、大抵の人間は情報提供に協力的になってくれるはずだ」
 そう真顔でヴァルマは答える。
「それは恐喝じゃないのか……?」
「冗談だ。もっとも私達には、園内の生徒講師教師教授、全ての人間に対して情報提供を要求する正当な権利を与えられている。それも理事長からだ。よって、全て合法だ」
 思いっきり、理事長に責任転嫁してないか……? それにしても、本当に今のセリフは本当に冗談だったのか? 俺にはまるで冗談には聞こえなかったのだが。
 俺はこれまで、この世で最も恐ろしいものは、理屈の通じない暴力的な人間と考えていた。だが、俺はヴァルマに、これまでとは違った恐怖を感じていた。なんというか、ヴァルマの底知れぬ恐ろしさのようなものに触れてしまったという感じで、俺自身どこか怯え気味になっている。なんだか逆らってはいけないような気がしてきた。
「話を本題に戻そう。我々の最終目標は、犯人の捕獲だ。生きているに越した事はないが、実質生死は不問だ。犯人は知ってのとおり危険な存在だ。それを、まさか素手で相手にしろと言うのかね? 格闘技科の生徒ならともかく。まあ、君に魔術なしで戦う度胸があるというのならば構わないが」
「できるわけないだろ」
「そういう事だ。我々は、理事長の命を完遂すればいい。どんな手段を用いてもだ」
 ニヤリとヴァルマが微笑む。どこか楽しそうな表情だ。
 なんか、楽しんでないか……?
 これは注意すべき点であるのだろうが、その一言がどうしても言い出せなかった。
「そんなに普段から出てくるもんか?」
「何時どこで遭遇するか分からないだろう? 犯人の足取りを追うという事は、犯人に警戒され、そして襲撃される確率も高める事に繋がるということを自覚したまえ」
 真っ向からそう言い切られ、俺は反論の言葉を失った。
 ヴァルマは滅茶苦茶な事を言っているようで、その全てがちゃんと理に適っているのだ。もし、ヴァルマに理詰めで攻められたら、俺はどうやっても勝てないだろう。だからそうならぬよう、俺は注意しなくてはいけない。まったく、チームが同じにならなくて良かった……。それがせめてもの救いか。
「でしたら、後で武器庫から借りてきますわ」
「一番良いヤツを選ぶといい。理事長の名を出せば、選り取りみどりだろう」
「私達も行きますね」
「真剣を持つのは久しぶり」
 嬉々とした表情のエルフィとシルフィ。
 ああ……理事長はどうして武器の使用なんか許可したのだろう? それも、こんな善悪の判断基準が極めて軽そうな二人にまで……。成績が良ければ、こんな面でも優遇されるものなのか?
 俺は、犯人どうこうとは全く別の事で、この調査の先行きに不安を感じずにはいられなかった。
 果たして、犠牲者は何人になるのだろうか?






 ふと目を覚ますと、真夜中だった。
 ゆっくりベッドから体を起こす。
 あの激しい渇きは収まっていた。だが、ヴァンパイアの本能の鼓動は、依然として体の奥からしっかりと聞こえてくる。また、再びそれが煮え立つのは時間の問題だ。
 立ち上がって明かりをつける。
 ふと見下ろしたテーブルの上に、書置きがあった。
『先に帰ってるね。明日の朝、また様子見にくるから。起きたらなんか食べなさいよ』
 リームの文字だ。
 僕は窓を開け、夜風を部屋の中に入れた。
 冷たい秋風が頬を打ってくる。
 雲一つない夜空には欠けた月が浮かんでいた。
 あれが真円を描くと、おそらく僕は自分を抑えられなくなるだろう。満月の日は、僕のヴァンパイアの血が最も騒ぐ日だ。それまで血に餓えた状態でいると、ほぼ間違いなく僕は理性を失う。
 ただでさえ、これまでに何度も理性を失ってきたのだ。おそらく満月の日は、これまでにない暴走の仕方をするだろう。
 僕はどうすればいいのだろう?
 この荒ぶるヴァンパイアの本能に、僕は勝つ事が出来るのだろうか?
 やはり、僕は人間の社会には居てはいけない存在なのかもしれない……。
 でも、僕はここに居たい。
 人間として生きていきたい。
 満月まで、残りあと―――。


TO BE CONTINUED...