怪談
タバコ売りの新吉は、三味線の師匠である豊志賀と恋仲になる。しかし親子ほども年齢の離れた二人の関係は双方に悪い影響を及ぼし、次第に二人の仲もぎくしゃくし始める。そんな中、ある日ふとした諍いから新吉は豊志賀の顔に傷を負わせてしまった。
原作は三遊亭円朝作の真景累ヶ淵。落語の一つです。ただし、実話を基にした創作であり累ヶ淵とそこで起こった事件は実在するものだそうです。
尾上菊之助と黒木瞳が主演、監督がリングシリーズの中田秀夫であるため非常に期待して観に行ったのですが。
序盤はほとんど過去の因縁と人間関係から始まるわけですが、とにかく新吉と豊志賀の関係が凄い。年齢差はともかく、人間関係のどろどろさがリアルで思わず引いてしまうほど。これは一重に豊志賀役の黒木瞳の演技力の賜物でしょう。
ホラー部分も特殊演出は極力使わず、とかくシンプルにねっとりとしたもの。客を驚かせるだけで特殊メイク以外ひねりのないホラーとは別物です。
しかし、面白かったのも中盤まで。
新吉の周囲が一変する辺りから、どういう訳か急激に作品の質が落ちていきます。特にラストの30分ほどは目も当てられません。何故こんな安易というかこれまでの作風を一気に台無しにするような演出を取ったのか、まるで理解が出来ません。極めつけはそのラスト。「なんだこのシーンは……」とリアクションに困るような状態でした。怖がるにしてもコミカルに見えるし、笑うにもシュール過ぎるし。
ホラーの本当の怖さとは視覚的なものではなく、もっと背筋を震わせる見えない部分にこそあるのだと僕は考えています。日常にあるかもしれないとかそういうリアリティではないし、突然異様なメイクをした人が現れれば生きていようと死んでいようと普通はびっくりするものだし、もっと人間を恐怖させる怨念とか窮地とかそういうものに力を入れないからホラー映画というジャンルは画一的になってしまう訳で。
リングの貞子のねっとりと首元に絡みつくような登場シーンは、ホラー映画=ドッキリ映画という僕の概念を完膚なきまでに破壊してくれました。そんな中田監督と、序盤の出来の良さに期待させられていただけに、お粗末な終盤の展開には失望を隠せません。この先、もはやまともなホラー映画は見る事は無いのだろうか。
オススメ度は3−。ホラー映画としての全体的な印象はむしろ中途半端でしょう。ドッキリ演出が中盤まで一度しか使われなかっただけに、後半の演出には失望させられる事請け合い。「なんか猛暑だからホラーとか見たいよね〜」ぐらいの気分で観に行くなら良いでしょう。僕みたいに過剰に期待すると泣きを見ます。
Posted: 8 月 4th, 2007 under 2007, 映画.
Comments: 1
Write a comment