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オッペンハイマー

大学で量子物理学を教えるオッペンハイマーは多くの人望を集める人物だった。
ある日、ドイツでウラン235の核分裂が発見される。今までの常識では有り得ない出来事だったが、これにより核分裂を軍事転用した研究が加速するのではないかと懸念する。
やがてオッペンハイマーはグローヴス准将の立ち上げたマンハッタン計画の責任者に任命され、本格的な核兵器の開発に着手する事になる。だが当時は赤狩り全盛期の時代で、オッペンハイマーの弟や交際相手には共産党との関わりがあり、彼自身もそういった疑いの目で見られていた。


主演はキリアン・マーフィー、監督はクリストファー・ノーラン。
原子爆弾の生みの親とも呼ばれるロバート・オッペンハイマーの半生を自伝的に描いた作品です。内容が内容なだけあって、日本での公開は非常に遅れました。
所感として、本作は原子爆弾よりもあくまでオッペンハイマーの視点で彼の半生を描いたものであり、核兵器の信義について語るような内容でないように感じました。オッペンハイマーは技術者としての視点では核兵器を成功させたい、人間個人としてはこれ以上世界で研究を加速させたくない、そういった二律背反する気持ちを抱えながら、半ば義務感で取り組んでいるように描かれています。そしてそんな彼に羨望したり嫉妬したりあるいは陥れたいと思ったり、周囲の様々な思惑に振り回され、結局は査問会という形でスパイ容疑をかけられたり、とにかく苦悩の連続でした。
原子爆弾は核分裂と連鎖反応がキーワードとなりますが、この連鎖反応という言葉が様々な場面でメタファーのように使われます。それは人間関係だったり、あるいは各国でこれから加速するであろう核開発だったり。科学者として核技術の先の未来が破滅ではないのかと憂う一方で、ただの力としか見ていない人物や、兎にも角にも英雄視してくる者もいたり、オッペンハイマーの孤独さを表現するシーンがたびたび強調されています。
本作が日本でも公開されるのは、ようやく核という言葉でヒステリックになったり感情論しか持ち込めない層が減ってきたからという事なのでしょうか。核兵器はろくでもないものなのは確かではあるけれど、本当にろくでもないのは技術をそういう事に使う発想にしか至らない人間なのかと個人的には思ったりします。

オススメ度は5−。非常にセンシティブながら没入感のある面白い作品です。ただ、当たり前のように原爆と水爆それぞれの原理を知ってる前提で話が進むので、最低限知っておくべき知識のハードルが高いようにも思います。核分裂と核融合、原爆と水爆の違いはあらかじめざっとでも予習した方が良いでしょう。

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